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SIRT1~7の働きと老化

SIRT1~7の細胞内局在の図

ヒトを含めた哺乳類のゲノム上には7種類のサーチュイン (SIRT1~7) が存在し、それぞれ細胞内の局在や役割が異なっている。

 

SIRT1は "核質" に局在し、SIRT2は主に "細胞質"、SIRT3~5は "ミトコンドリア"、SIRT6は "ヘテロクロマチン領域"、SIRT7は "核小体" に局在している。

 

また、SIRT1は核から細胞質へ移行し、SIRT2は細胞質から核へ移行することが知られている。

 

 

・SIRT1

 

→ カロリー制限によって、複数の臓器で発現が増加し、代謝に関わる多くの分子を制御することが知られている。

 

SIRT1による核内受容体PPARɤのコファクター1(PGC1α) の活性化は、糖新生、脂肪酸酸化、ミトコンドリアの活性化を促進する。

 

また、SIRT1をノックアウトしたマウスでは、カロリー制限による運動機能改善や寿命延長が見られなくなることから、SIRT1はカロリー制限による反応系において主要な因子であると考えられている。

 

SIRT1は、p53やFOXO、HIF1-1α / 2α などを介して "酸化ストレス" や "遺伝毒性ストレス" に対して抵抗性をもたらすことも知られている。

 

さらに、SIRT1は、オートファジーの必須構成因子であるATG5やATG7、ATG8を介してオートファジーを制御していることも知られている。

 

オートファジーと老化については、次回、まとめていこうと思う。

 

 

・SIRT2

 

→ SIRT2は、PEPCK1の脱アセチル化を介した "糖代謝" や、FOXO1の脱アセチル化を介した "脂質代謝" の制御を行っている。

 

また、SIRT2は "がん抑制遺伝子" であることも知られており、SIRT2のノックアウトマウスでは発がん率の上昇が認められるそうだ。

 

さらに、神経細胞におけるSIRT2の阻害は、α-synucleinタンパク質の封入体形成を抑制し、神経毒性を軽減させることも報告されている。

 

 

・SIRT3

 

→ SIRT4とSIRT5が存在している場合でも、SIRT3をマウスで欠損させるとミトコンドリアに存在する多くのタンパク質 (エネルギー代謝に関わるタンパク質など) のアセチル化が亢進することから、SIRT3はミトコンドリアの主要な脱アセチル化酵素であると考えられている。

 

SIRT3をノックアウトしたマウスの肝臓では、絶食時でも脂肪酸酸化の中間代謝物や中性脂肪の蓄積が認められ、高脂肪食負荷 (HFD) による "インスリン抵抗性"、"肥満"、"非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)" などに対して感受性になることが知られている。

 

また、SIRT3は、カロリー制限による加齢性難聴の抑制にも関与していることが知られている。

 

 

・SIRT4

 

→ SIRT4の発現は、様々なDNA損傷ストレスによって誘導され、グルタミン酸デヒドロゲナーゼを介したグルタミン酸の補充反応が抑制されることで細胞の増殖が停止することが知られている。

 

SIRT4の欠損は、"細胞の増殖抑制" や "DNA修復" に異常をきたし、染色体異常を蓄積させる。

 

無刺激の状態でも、SIRT4が欠損している細胞では、倍数性などの染色体異常がみられることから、SIRT4は内因性のDNA損傷修復に対しても重要な役割を担っていると考えられている。

 

つまり、SIRT4は "がん抑制遺伝子" であると考えられる。

 

 

・SIRT5

 

→ SIRT5は、1型カルバミルリン酸合成酵素 (CPS1) を脱アセチル化して尿素回路を制御することが知られている。

 

また、NAD+依存的なリジンの脱スクシニル化活性と脱マロニル化活性を持っていることも知られている。

 

スクシニル化やマロニル化を受けるタンパク質として、代謝関連酵素が多く見出されている。

つまり、SIRT5もミトコンドリアで代謝経路を制御していると考えられる。

 

 

・SIRT6

 

→ SIRT6のノックアウトマウスは、他のSIRTのノックアウトマウスと比べて、最も顕著な早期老化様症状を示すことが分かっている。

 

また、SIRT6は、同じく核内に局在するSIRT1とは異なり、非常に高い基質特異性を持っている。

 

SIRT6は、テロメア構造の安定化やDNA損傷修復、脂質代謝に関わる遺伝子発現にも関与していることが知られている。

 

 

・SIRT7

 

→ ヒストンH3の18番目のリジンを脱アセチル化する酵素であり、SIRT6と同様に非常に高い基質特異性を持っている。

 

SIRT7は、がん細胞の増殖や形質維持に働いていると考えられている。

 

また、SIRT7は、数多くのリボソーム蛋白質遺伝子に結合していることや、rRNAの転写制御にも関与していることが知られている。

 

このことから、SIRT7はタンパク質合成系を制御している可能性が示唆されている。

 

 

参考文献:実験医学 Vol.31 No.20 (増刊) 2013, 45-52.