少し前から注目されている “エピジェネティクス”。
エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列は変えずに、後から加わった修飾 (DNAメチル化やヒストン修飾) が遺伝子機能を調節する制御機構のことを一般的に指している。
・DNAメチル化
→ 真核生物でのメチル化はシトシンの5位にメチル基を付加する反応であり、シトシンとグアニンが隣接しているCpG部位でのメチル化は、トランスポゾンの転移抑制に強く関与していることが分かっている。
・ヒストン修飾
→ ヒストン修飾には、アセチル化やメチル化、ユビキチン化、リン酸化、SUMO化などが知られている。
ヒストンの修飾状態によって、ヒストンへのDNAの巻き付き具合が変化し、それに伴って遺伝子発現も変化する。
凝集度が高いクロマチンの形状を示す “ヘテロクロマチン” では転写レベルが低く、凝集度が低いクロマチンの形状を示す “ユークロマチン” では転写レベルが高い。
このエピジェネティック機構と寿命延長、老化の関係性についての総説を読んでみた。
老化した細胞では、“ヒストンの欠損” や “ヒストン修飾のアンバランス”、“DNAメチル化の変化”、“クロマチンのリモデリング”、“局所的なヘテロクロマチン” などが起こっていることが報告されている。
細胞の老化、個体の老化が “エピジェネティックな変化” によって引き起こされているならば、このエピジェネティックな変化を元の状態に戻すことによって、老化をリバースさせることが可能であると考えられる。
もちろん、老化はエピジェネティックな変化だけでなく、様々な要因 (テロメアの短縮やDNA損傷など) によって引き起こされている。
ただ、老化プロセスで起きたエピジェネティックな変化を若い細胞の状態に近づけることで、どれくらい老化が改善されるのかはとても興味深い。
エピジェネティクスと老化の研究は、これから先、さらに発展していくことだろう。
非常に楽しみである。
参考文献:Payel Sen et al. Epigenetic Mechanisms of Longevity and Aging. Cell 166, 822-839 (2016).