以前読んだ論文「スプライシング因子1は線虫の食餌制限およびTORC1経路による寿命を調節する」(2017年1月に発表された論文) を簡単にまとめようと思う。
この論文では、C. elegansというモデル生物を用いられている。
“C. elegans” という生物は、多細胞生物として最初に全ゲノム配列が解読された生物であり、体長約 1mm で透明な体をもつ線虫である。
性染色体による性決定は XO 型であり、XX の個体は雌雄同体になり、XO の個体は雄になる。
雌雄同体は幼虫期に 300 個弱の精子を作り、成虫期になると卵形成し、貯めておいた精子を使って自家受精を行うため、実験上、遺伝的な背景を均一にすることが出来るためモデル生物としてよく用いられている。
また、“スプライシング” についてだが、まずDNAからmRNA前駆体が転写され、このmRNA前駆体からイントロン部分の切り捨てが行われてエキソン部分が連結し、成熟mRNAが出来上がる。
この不要な部分の切り捨ての過程をスプライシングという。
著者らは、老化したC. elegansでは、広範なmRNA前駆体スプライシングの異常が見られることを発見した。
この異常は、食餌制限を行うと、スプライシング因子1[SFA-1;SF1の C. elegans ホモログ]を介して軽減されたそうだ。
SFA-1は、食餌制限による寿命の延長、ならびにTORC1経路の構成因子であるAMPK、RAGA-1、RSKS-1/S6キナーゼの調節による寿命の延長に特異的に必要であることが明らかとなった。
また、SFA-1の発現を高めると寿命が延長した。
以上のことから、“RNAスプライシングの恒常性の維持” は寿命延長の鍵だと考えられる。
この結果は、ヒトではどうなのか気になっていたが、最近、ヒトの内皮細胞においても硫化水素をミトコンドリアに届けることで、スプライシング因子関連遺伝子の発現を増加させ、老化マーカーを一部回復させたという報告があった。
線虫とヒトでは見た目が全く違うが、モデル生物の実験で得られた結果が、実際にヒトでも同様に得られており、モデル生物を用いた実験の大切さを身に染みて感じた。
参考文献:Caroline Heintz et al. Splicing factor 1 modulates dietary restriction and TORC1 pathway longevity in C. elegans. NATURE 541, 102-106 (2017).