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食餌制限と老化

食餌制限による寿命延長効果の図

食餌制限による寿命延長効果は、酵母からマウスに至る様々な生物種において確認されている。

 

食餌制限には、二つの方法が知られており、一つは、継時的に総摂取カロリーを減らす "カロリー制限 (CR ; Calorie Restriction)"、もう一つは、自由摂食期間と摂食を行わない飢餓期間を繰り返す "断続的飢餓 (IF ; Intermittent Fasting)" である。

 

げっ歯類において、「CR」「IF」の両方で、血中の "グルコース量""中性脂肪""インスリン量""成長ホルモン" が減少し、"インスリン感受性""遊離脂肪酸" が増加することが確認されている。

 

このように、身体的特徴は非常に似ている。

 

しかし、「IF」の方が「CR」よりも食餌制限による変化が起こるまでの期間が短いなど、変化が起こるまでの "期間" や変化の "度合い" には違いがみられる。

 

細胞は、置かれている環境によって "成長" を優先するか、"維持・管理" を優先するかを決めている。

 

栄養が十分である環境下においては、細胞は成長することを優先し、栄養が枯渇している環境下では、維持・管理を優先する。

 

しかし、がん細胞は栄養状態に関係なく成長を優先する。

 

そのため、飢餓状態において維持・管理機能が低いがん細胞は、正常細胞よりもストレス耐性が弱くなる。

 

この栄養枯渇時における、がん細胞の脆弱性を利用したがん治療として、"化学療法""食餌制限" を併用する方法があり、この併用療法は、がんの治療に効果的であるというデータが、マウスを用いた実験で得られている。

 

この場合、「CR」よりも「IF」の方が、IGF-1 (インスリン様成長因子-1) の減少幅が大きく、加えて、食餌制限の効果が出るまでの期間が短く、体重の減少が小さいため、より良いと考えられている。

 

 

参考文献:実験医学 Vol.31, No.20 (増刊), 2013,109-114.